2014 年 10 月 14 日
第 7 回:様々なデバイスがインターネットにつながる基盤を目指して
対談者ご紹介
江田 麻季子(えだ まきこ)様
インテル株式会社 代表取締役社長 インテル コーポレーション セールス & マーケティング統括本部 副社長
1988 年早稲田大学卒業。米国の大学院修了後、米国医療機関にてマーケットリサーチ・アナリストとして勤務する。日本に帰国後、市場調査会社勤務を経て、2000 年インテル株式会社へ入社。いくつかの役職を歴任後、マーケティング本部長に就任し、ブランド戦略、販売促進企画、市場調査やインターネット・マーケティングなどを統括する。2010 年マーケティング& コンシューマー・セールス・ディレクターとして、香港を拠点にインテルのアジア太平洋地域のマーケティング活動を統括する。2013 年10 月より現職。
日本企業を活性化するために
" グローカル" な味付けが万国共通のイメージ作りの近道
眞柄:江田社長はすごいなと思ったのが、マーケティング責任者として手がけた CM に、かなりローカルな味つけがされていたことです。例えば、トラがコミカルに踊るウルトラブックの CM。「よく作ったなあ」と驚いて観ていました。グローバル企業はたいてい、顧客へのメッセージを伝えるタグラインやコーポレートカラーは世界共通ですから、正直「こんな味つけしていいの?」と驚きました。
江田:実際の成果物を見るとグローバルのコミュニケーションとは違うこともありましたけど、最終的に目指しているのは、各市場のお客様に、世界共通のイメージを持っていただくことです。でも、文化的背景によってイメージを浸透させるプロセスが違うので、「こういうコミュニケーションのほうが近道ではないか」と米インテルに話しました。
眞柄:本国を説得して、チャレンジするのはすごいですよ。あの一連の CM は、マルチナショナルな会社が自社のメッセージをローカルに落とし込むときのお手本だと思います。
江田:日本はちょっと異質な市場で、米インテルの人たちも「戦後に同じく経済大国になったドイツでうまくいくのに、なぜ日本ではうまくいかないのか」という疑問があったみたいです。だから説得したというより、彼らと一緒に作ったという感じです。
「すべての基盤になっていきたい」という思いを中心に持つ
眞柄:インテルの事業戦略を見ると、データセンター、PC エクスペリエンス、モビリティー、テクノロジーとの 4 つの注力分野があります。私は個人的にアクティブシニア向けのインターネットの活用をお手伝いしています。アクティブシニアの皆さんはタブレットを利用されています。そして、それはテクノロジーやデータセンターに支えられている。インテルはしっかりそこを意識されていますね。
江田:テクノロジーでは 5 年後を見据えて開発に投資しています。微細化技術の進展で半導体チップはどんどん小さくなり、タブレットのように持ち運びが楽で省電力の製品が生まれてきました。
この先にはウェアラブル端末など様々な製品がインターネットにつながる IoT(Internet of Things)の時代が到来しますから、それに向けて研究開発を進めています。そして、すべての機器がインターネットを介してサーバーに接続され、ビッグデータの収集・解析を行うことで、新しいサービスやビジネスが実現します。この根幹となるサーバーやクラウドなどのプラットフォームも、インテル製品が支えています。PC やタブレットを楽しんでもらい、様々なものをネットにつなげることで多様なニーズに応えていきます。例えば、2 in 1 タイプの PC なら、電車内ではタブレットとしてニュースを読み、長いメールを書きたければキーボードも利用できます。インテルは半導体の会社ですから、PC やタブレットを買うとき、その中にインテルが入っていることに気づいてもらえたらうれしいですね。
グローバル企業が提供するセキュリティー技術に安心感
眞柄:あらゆる製品がインターネットでつながる時代はもうすぐですね。
江田:2020 年にはネットにつながる機器が 500 億個を超えると言われています。そうなるとPCやスマホだけでなく、家電などを含めたマシンとマシンの間(M2M)で通信が広がると予想されています。
眞柄:現状に加えてマシン同士のインタラクティブが生まれてくるなか、「セキュリティーは大丈夫か」という不安感はますます高まります。
江田:セキュリティーが心配でも IT 利用は避けて通れないし、利用したいと思わせる魅力があります。利便性とセキュリティーのいいバランスが必要ですね。
眞柄:実際、情報漏洩やコンピュータウィルスなどの事件は後を絶ちません。当社も SSL サーバー証明書や端末認証などのセキュリティーサービスを提供していますが、インテルがプロセッサーの上位モデルに、ベースの認証技術としてアイデンティティ・プロテクション・テクノロジー(IPT)※を組み込んだのは注目すべきことです。
江田:当社では 10 年ほど前から、セキュリティーがさらに重要になると見通して投資をつづけてきました。できるだけユーザーが意識しないようにハードとソフトの組み合わせでセキュリティーを確保する技術を研究開発してきました。
眞柄:インテルのようなグローバル企業が IPT をリリースし、「安心して使ってください」とメッセージを発信したことは意義深いですね。
ダイバーシティの視点を入れればビジネスの勝機が見える
眞柄:日本は女性の社会進出とシニア層の増加が急速に進み、年齢や性別に関係なく誰もがインターネットでつながる社会になりました。ところが、ビジネス社会はそのダイバーシティにまだ追いついていません。戦後の日本が高品質のモノづくりで世界標準となる製品を生み出したのも、ほとんど男性中心の活動です。もっと女性やシニアの視点を活かす必要がありますね。
江田:事業のうえでもダイバーシティの遅れは大きなリスクになります。日本は製造業の量で勝つ経済から、知恵を絞って見えないニーズを拾う経済に変わりました。多様な視点を欠いた製品づくりはむしろ怖いと思います。市場の男女比や年齢構成を考えたモノづくりでないと、見えないニーズに気づけません。
眞柄:男性向けのソリューションやエクスペリエンスだけでは、もう市場は受け入れてくれませんね。
江田:電車内ではみんながタブレットやモバイルを使い、ネットショッピングする人もいます。個々のニーズに合った事業を展開すれば、成功の見込みは十分にあります。ダイバーシティの遅れを突破できれば、そこには勝機があります。アメリカでは「あんな格好悪いウェアラブルの時計やメガネなんて身に着けたくない」という女性の声も多いらしく、シリコンバレーの女性起業家は「ジュエリーなら受け入れられる」と話していました。ウェアラブル端末がジュエリーに組み込まれたら、買いたいと思う女性たちも多いでしょう。人口の半分は女性なのですから大きな市場です。
眞柄:少子化、高齢化など課題山積の日本市場に向けて、今後どのように事業を展開しますか。
江田:日本を課題先進国と捉え、そこにチャンスを見出して事業拡大を目指します。インテルは人間の根本的なニーズを現実化するテクノロジーに投資しています。例えば、声やジェスチャーで機器を操作する技術、あるいは自動翻訳の技術などです。それらのテクノロジーを活かして日本の課題とニーズに取り組んでいきたいと考えています。