2026 年 10 月 09 日
速報:金融庁より通達「犯罪収益移転防止法施行規則改正に伴う本人確認方法の早期見直しについて」
― 本人確認書類の画像、本当に保存する必要がありますか?
はじめに:相次ぐ情報漏えいを機に「ICチップ読取」による本人確認への速やかな対応を国が要請
2026 年 9 月下旬、カーシェアリングサービス「タイムズカー」の Web システムが第三者による不正アクセスを受け、大規模な個人情報漏えいが発生しました。タイムズカーの公表によると、漏えいしたアカウント数は約 660 万件にのぼり、そのうち約 160 万アカウントにおいて、運転免許証画像などの本人確認書類の漏えいが確認されています。
またこうした情勢を受け、2026 年 10 月 9 日には、金融庁が金融機関等に対して注意喚起を行っています。この中で金融庁は、サイバーセキュリティ対策の点検、非対面での本人確認の徹底を求めるとともに、2027 年 4 月に施行予定の本人確認方法の見直しについても、施行日を待たず、IC チップ情報の読み取りを利用した本人確認への可及的速やかな対応を求めています。
犯罪収益移転防止法施行規則の改正により、施行日である令和 9 年 4 月 1 日より、本人確認方法として、本人確認書類の画像送信を受ける方法は廃止し、不正対策として極めて効果が高い、IC チップ情報の読取に原則一本化されるところ、現下の情勢を踏まえ、施行日を待たず、可及的速やかな対応を図ること。
出典:「現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について」(金融庁)
本人確認書類の画像は、会員登録やサービス利用開始時の本人確認として現在も広く利用されていますが、こうした画像を本人確認の証跡として自社や委託先のシステムに保存している場合、万が一情報漏えいが発生すれば、その画像そのものが漏えいすることになります。
今回の事案は、本人確認を行う企業にとって、「本人確認のためにどのような情報を取得し、何を持ち続けるのか」を改めて考えるきっかけになると考えています。
本人確認書類の画像を保存するということ
2026 年 10 月現在、本人確認書類を撮影・アップロードする方式は、オンラインで行う本人確認において広く利用されています。
例えば、
- マイナンバーカード
- 運転免許証
- 在留カード
... といった顔写真付きの本人確認書類が利用されており、その券面には氏名、住所、生年月日、顔写真、書類番号など、本人を特定するための情報が集約されています。
これらは本人確認を行ううえで必要な情報ですが、一方で、本人確認が完了した後も券面画像そのものがシステム上に保存され続けているケースがあります。
そこで改めて考えたいのが、「本人確認に必要なのは、本当に券面画像そのものなのか」という点です。
本人確認書類の画像は、単なる「個人情報のかたまり」ではない
本人確認書類の画像を保持するリスクは、単に「個人情報が多く含まれている」ということに留まりません。
本人確認書類の画像は、それ自体が「その人が誰であるか」を証明するために利用されるものであるため、その画像が第三者に渡った場合、別のサービスにおける本人確認などに悪用される可能性を考える必要があります。
もちろん昨今は、リアルタイム撮影・顔照合・ライブネス(生体)判定などを組み合わせて、画像の使い回しやなりすましを防いでいるサービスもあり、本人確認書類画像が漏えいしたからといってそれだけですべての本人確認が突破されるわけではないですが、近年、生成 AI や画像編集の技術が急速に進歩していることを考えると、「提出された画像が、本当にその場にある本人確認書類を撮影したものである」ということをどのように担保するかは、これまで以上に重要な課題になっています。
制度面でも「画像を用いた本人確認」からの転換が進んでいる
こうした本人確認方法を取り巻く環境は、制度面でも大きく変わろうとしています。代表的なものが、犯罪による収益の移転防止に関する法律、いわゆる犯収法に基づく本人確認方法の見直しです。
これまでの非対面取引では、本人確認書類の画像と本人の容貌画像を送信する方法などが認められていましたが、法改正により、こういった画像を中心とした一部の本人確認方法が廃止され、本人確認書類に搭載された IC チップ情報を読み取る方法が原則義務化されています。
つまり、犯収法対応が必要な金融機関や特定事業者においては、「書類を撮影し、その画像を確認する本人確認」から「IC チップに記録された情報を読み取って確認する本人確認」へ、制度としても大きく舵が切られている状況です。
2027 年 4 月施行対応
犯収法改正本人確認対応チェックシート 確認方法の変更点と、自社への影響を簡単にチェックできます。
IC チップを使えば、画像に依存しない本人確認が実現可能
マイナンバーカード、運転免許証、在留カードなどの本人確認書類には IC チップが搭載されています。スマートフォンなどで IC チップを読み取れば、本人確認書類そのものに記録された情報を取得でき、また IC チップ内に記録された電子署名などを検証することで、読み取った情報が真正なものかどうかも確認が行えます。
画像を利用した本人確認では、「この画像は正しい本人確認書類を撮影したものか(=悪用された画像が用いられていないか)」の確認を行っていましたが、これに対して IC チップを利用した本人確認では、署名検証などにより、「実際の本人確認書類の IC チップから、正しい情報を読み取れているか」の確認を行います。
そのため仮に本人確認書類の画像だけが第三者に漏えいしたとしても、その画像をもって本人確認を完了することはできません。漏えいした本人確認書類画像だけを使ったなりすましへの耐性を高められる点は、IC チップを利用するメリットです。
「画像を持たない」設計も実現できる
なお、IC チップを利用する意義は本人確認の強度を高めることだけではありません。
今回の本人確認書類画像の漏えい事案との関係で、むしろ注目したいのはこちらです。
「本人確認書類の券面画像そのものを取得・保存しない本人確認フローを設計できること」
例えば、本人確認に必要な要件が
- 本人確認書類に記録された氏名・住所・生年月日などを取得すること
- その本人確認書類が真正なものであることを確認すること
なのであれば、必ずしも本人確認書類全体を画像として保存する必要はありません。
IC チップから必要な情報を読み取り、その真正性を検証し、事業者側では必要な属性や検証結果のみを保持するといった設計も当然可能です。
もちろん、実際に何を保存する必要があるかは、適用される法令や業務要件、サービスの性質によっても異なりますが、重要なのは、現在の本人確認の目的に照らして本当に必要な情報を改めて整理することです。
法令対応でなくても、今こそ本人確認フローの棚卸しを
犯収法や携帯法など、法改正によって本人確認方法の見直しが必要な企業にとっては、2027 年 4 月の制度変更が本人確認方法を見直す明確なタイミングになります。特に犯収法対応が必要な金融機関については、前述のとおり、金融庁が 2027 年 4 月の施行日を待たずに速やかな対応を求めており、本人確認方法の見直しは、より差し迫った課題となっています。
一方でそういった法改正の外にいるサービスでは、そのような強制的な期限はないかもしれません。
ただ、だからこそ今回のタイムズカーの事案は、自社の本人確認フローを一度棚卸しするきっかけとなります。
当然ながら、サービスによって本人確認の目的や求められる水準は異なるため、「画像による本人確認を廃止すべき」と一律にいえるものではありませんが、本人確認書類の画像を大量に保有するのであれば、そのメリットだけではなく、漏えいした場合にどのような影響が生じるのかまで考慮したうえで、その方式を選択する必要があります。
たとえば以下のような観点で、いま一度確認をしてみてはいかがでしょうか。
- 自社では、どのような目的で本人確認を行っているか
- どの本人確認書類を利用しているか
- 本人確認書類の券面画像を取得しているか
- その画像を自社または委託先で保存しているか
- 保存する法的・業務上の理由は何か
- 保存期間は適切か
- 本人確認に本当に必要なのは画像なのか、それとも画像から得られる情報なのか
- IC チップなどを利用して、画像そのものを取得しない方法に置き換えられないか
本人確認の信頼性を高めながら、自社が抱える個人情報のリスクを可能な限り小さくする。その両方を実現できる本人確認のあり方を考えることが、これまで以上に重要になっていきます。
さいごに
タイムズカーの事案と、本人確認を取り巻く制度の変化は、自社にとって本当に必要な本人確認のあり方を改めて考える一つのきっかけになるのではないでしょうか。
サイバートラストでは、本人確認書類に搭載された IC チップからの情報読み取りや、読み取った情報の真正性を検証する機能を提供しています。犯収法対応はもちろん、法令対応を直接の目的としない本人確認についても、本人確認書類画像の取得・保管を含め、現在の本人確認フローを見直したい場合には、ぜひお問い合わせフォームよりご相談ください。







