2024 年 01 月 11 日
Open Source Summit Japan 2023 レポート
2023 年 12 月 5 日と 6 日の 2 日間にわたり、東京で Open Source Summit Japan 2023 が開催されました。世界各国からオープンソースに関わる開発者やディストリビューターが集まり、最新動向や技術情報、コミュニティ活動の報告など、興味深い基調講演やカンファレンスが行われました。サイバートラストも 6 名の登壇者が参加し、7 つのカンファレンスで講演しました。また、初日の基調講演には Linux カーネルと Git 開発者の Linus Torvalds 氏が、1990 年代から Linux カーネル開発に携わってきた Dirk Hohndel と対談しました。
オープンソースは Helpful(役立ち)Hopeful(希望で)Humble(謙虚)
Open Source Summit Japan 2023 初日の基調講演には、Linux Foundation で Executive Director を務める Jim Zemlin 氏が登壇し、「Linux Foundation にとっての『成功』は、世の中『Impact(影響)』を与えることだ」と語りかけます。Linux Foundation では、世界中の開発者がコードに集中できるように、イベントの開催やプロジェクトのマーケティング、教育や啓蒙活動など多岐にわたるサポートを行っています。Linux Foundation を代表する Impact のあるプロジェクトといえば Linux が有名ですが、その他にも、ネットワーク自動構築運用の ONAP、コンテナオーケストレーションの Kubernetes、機械学習フレームワークの PyTorch などのプロジェクトもあります。Zemlin 氏は「Linux Foundation のプロジェクトには、世界で毎日 40 万人が関わっているので、平均的な給与を試算すると約 260 億ドルになる。ソフトウェア会社だとすれば世界有数だ」と会場の笑いを誘います。そして、Linux Foundation が Impact を与えるオープンソースを支える 3 つのキーワードは、Helpful(役立ち)Hopeful(希望で)Humble(謙虚)にあると訴えます。
( 講演の動画 )
オープンソースがスタンダードになった
基調講演のハイライトは、Linux カーネル開発者の Linus Torvalds 氏と、Linux カーネル開発に携わってきた Dirk Hohndel との対談でした。会談の冒頭で Torvalds 氏は、来日の数日前にリリースされた Linux 6.7-rc4 について触れ「クリスマス前にリリースできてよかった。大きな問題が起こらないように願っている」と話します。また、Linux カーネル開発で使われるようになってきた Rust 言語について「Rust に完全に依存してはいないが、ドライバーやサブシステムの開発に使われている」と説明します。そして「オープンソース開発にとって大切なのは、コミュニケーションにある」と指摘し、コードのメンテナンスを行うメンテナーは「互いの文脈やコードの意図を正しく伝える必要がある」と補足します。さらに、Hohndel 氏が「オープンソースのようにオープンデータという変革は起きるか ?」と問いかけると、Torvalds 氏は「30 年前と比べると、オープンソースはスタンダードになった。今では、大きなプロジェクトはオープンにして、企業を超えて個人が協力し合って物事を進めるほうが、枠を超えたコラボレーションを実現できると思う」とオープンの意義を語ります。最後に Torvalds 氏は「5 年 10 年先のことは予見しないし、大きな発表もしないが、大きな問題を解決するためには、小さなステップを積み重ねていく必要がある」とオープンソースに取り組むエンジニアに賛辞を送ります。
( 対談の動画 )
サイバートラストの 6 名が 7 つのカンファレンスに登壇
基調講演後のカンファレンスでは、6 名のサイバートラストのスタッフが、7 つの講演を行いました。
初日は、サイバートラスト株式会社 プロダクトマーケティングマネージャーの富田佑実氏が OpenChain Project Japan ワーキンググループのメンバーとして参加する Introducing OpenChain Japan Community's SBOM Initiatives「OpenChain Japan コミュニティの SBOM の取り組みのご紹介」と題する講演と並行して、Bridging Business and Open Source「ビジネスとオープンソースの橋渡し」というカンファレンスで、サイバートラスト株式会社 チーフオープンソースオフィサー、エキスパートソフトウェアエンジニアの鈴木崇文氏が、MIRACLE LINUX の開発と、AlmaLinux への参加と貢献に取り組んできた経緯を語りました。また、サイバートラストでは日本での OpenSSF 活動への参加を通じて、セキュリティ強化に重点を置いた専任チームを編成しています。そして、オープンソースとビジネスの橋渡しにおける同社の経験と、企業としてオープンソースに貢献することの重要性や取り組みを鈴木氏は紹介しました。
「OpenChain Japan コミュニティの SBOM の取り組みのご紹介」
動画は こちら
「ビジネスとオープンソースの橋渡し」
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The Evolution of SBOMs in AlmaLinux「AlmaLinux の SBOM 進化」と題されたカンファレンスには、サイバートラスト株式会社 プリンシパルエンジニアのマティアス・クルク氏が登壇し、米国にソフトウェアを供給したい企業が満たす必要がある SPDX をサポートした SBOM ジェネレーターについて講演しました。AlmaLinux Foundation に参加したサイバートラストでは、以前から提供されていた CycloneDX 形式の SBOM ジェネレーターに SPDX 形式のサポートを追加しました。また、NTIA( アメリカ合衆国国家電気通信情報管理庁 ) の最小要件を満たしていないため、その要件を満たす変更も追加しています。カンファレンスでは、開発の経緯や具体的な SBOM 生成方法などが紹介されました。
「AlmaLinux の SBOM 進化」
動画は こちら
High Stability Rust in Kernel by Kernel CI「カーネル CI によるカーネルの安定性の高い Rust」には、サイバートラスト株式会社 シニアエンジニアの橘ありす氏が登壇し、rust-for-linux と KernelCI がどのように連携するか説明しました。橘氏は、KernelCI 技術運営委員会の一員で、Rust-for-Linux 用の小さなパッチを提供しています。KernelCI はアップストリームの Linux カーネルに焦点を当てたテスト システムで、rust-for-linux は Linux カーネルに Rust 言語のサポートを追加しています。カンファレンスでは、なぜ rust-for-linux が必要なのか、なぜ rust-for-linux ブランチの安定性を KernelCI でテストする必要があるのか、KernelCI が Rust-for-Linux をどのようにテストしているのか、その仕組や使い方が解説されました。
「カーネル CI によるカーネルの安定性の高い Rust」
動画は こちら
Proposing the Integration of CIP Kernel into AGL「CIP カーネルの AGL への統合の提案」では、サイバートラスト株式会社 エキスパートエンジニア兼 OSPO スタッフの茂田井寛隆氏が、AGL(Automotive Grade Linux) に、CIP(Civil Infrastructure Platform) カーネルを統合する意義や必要性について講演しました。Civil Infrastructure Platform プロジェクトは、産業インフラに適用できるプラットフォームとして、S-LTS Linux カーネル、ソフトウェア アップデート、自動テストを開発しています。車載機器と産業インフラの両方にとって重要なセキュリティ対策と安定した長期サポートを実現するために、サイバートラストでは CIP カーネルの AGL 統合を提案しています。
「CIP カーネルの AGL への統合の提案」
動画は こちら
AlmaLinux OS Foundation 理事長も登壇
2 日目の The Future of AlmaLinux「AlmaLinux の将来」には、サイバートラスト株式会社 執行役員 OSS 事業推進本部長の鈴木庸陛氏と、AlmaLinux OS Foundation 理事長の benny Vasquez 氏が登壇しました。鈴木氏は、サイバートラストがアジアで唯一の AlmaLinux のプラチナスポンサーになった経緯や、日本から AlmaLinux を開発する計画について説明しました。また、AlmaLinux OS Foundation の理事長であり、コミュニティ管理における 10 年以上の経験がある Vasquez 氏は、AlmaLinux の現状と将来のビジョンについて語りました。
「AlmaLinux の将来」
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最後の The OSPO Panel of JAPAN 2023「OSPO パネルオブジャパン 2023」のパネルディスカッションに、サイバートラスト株式会社 エキスパートエンジニア兼 OSPO スタッフの茂田井寛隆氏が参加し、組み込みソフトウェア エンジニアとしての立場から、OSPO(Open Source Program Office) の世界的な流れや、エンジニアがコミュニティ活動するために OSPO ができることについて登壇者と意見を交わしました。
「OSPO パネルオブジャパン 2023」
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