2025 年 03 月 10 日
犯収法改正で「ICチップ読み取り」の流れが加速、早期対応がカギ
はじめに
2026 年 4 月に通称「携帯法」の改正が施行される旨を前回「26 年 4 月施行! 携帯法改正で IC チップ読み取りへの対応が急務に 」で取り上げてまもなく、2025 年 2 月 27 日に「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」の意見募集が開始されました。前回のブログ同様に、今回は「犯収法」の具体的な改正内容はどうなっているのか、どのような影響があるのかについて解説します。
出典:警察庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について
「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(略称「携帯電話不正利用防止法」以下、携帯法)」の改正案意見募集が行われたことで、犯収法改正も近く行われることを想定していましたが、ここにきて流れが一気に加速しています。
犯収法の対象事業者様においても、いよいよ対応待ったなしの状態になるため、今後の対応検討や情報収集の一助にしていただければ幸いです。
犯収法改正のポイント 犯収法「ホ」が廃止、撮影や写し利用は不可に
今回の犯収法改正は「2027 年 4 月 1 日から施行」とされており、改正のポイントは携帯法同様、非対面(オンライン)での本人確認厳格化です。改正における主なポイントは以下 3 つと捉えています。
- 本人確認書類画像の送信を受ける方法の廃止
- 写しの送付を受ける方法の原則廃止
- 非対面で送付可能な書類の厳格化
犯収法において、現時点認められている主なオンライン本人確認(以下、eKYC)手法として、犯収法「ホ」、「ヘ」、「ト」、「ワ」と呼ばれる方式が存在します。
※他、eKYC 手法として犯収法「ヲ」「カ」と呼ばれる方式も存在しますが、あまり目にする方式ではないため本記事では省略します。
このうち広く Web サイトなどで利用されているのは犯収法「ホ」方式で、自分の顔写真撮影に加えて、マイナンバーカードや運転免許証の表面、裏面、斜めなどを撮影する方式です。「Web で完結できるし、犯収法『ホ』方式だけは対応しておこう」とされている事業者様も多いのではないかと思います。そのような状況において犯収法「ホ」方式の廃止は非常に大きなインパクトのあることであり、同方式を採用されている事業者様は「いつか廃止されるとは聞いていたけれど、いよいよ廃止が明確になってしまった」と頭を抱えられているのではないでしょうか。
上記含め何がどう変わるか、以下、1~3 について解説していきます。
1 は前述したとおり、主たる影響は犯収法「ホ」方式の廃止です。ただ、「ホ」方式以外でも本人確認書類画像の送信を受ける方法は利用されています。
例えば、犯収法「ト」方式において、現在は「本人確認書類画像の送信を受けるもしくは IC チップ読み取り」とされている部分がありますが、こちらは改正後に「IC チップ読み取り」のみとなります。同じように方式としては残るものの、その内容から本人確認書類画像の送信を受ける方法が削除されているものがいくつかあります。
本人確認書類画像の送信を受ける方法は偽変造によるなりすまし等のリスクが高いことから、今回の改正で廃止されます。
2 は前述の犯収法「ホ」、「ヘ」、「ト」、「ワ」ではなく、犯収法「リ」方式が主に関係します。犯収法「リ」方式は、本人確認書類の写し 2 つの送付を受け、その住所に転送不要郵便等を送付する方式ですが、1 同様に写しの送付は偽変造によるなりすましなどのリスクが高いため今回の改正で廃止されます。
なお、写しの送付は犯収法「ヌ」方式でも利用されていますが、これは預金等の口座開設時にのみ利用できる方式であり、用途が限定的でリスクが低いと判断されることから、同方式における写しの送付は改正後も引き続き認められています。
3 は eKYC 手法を用いた本人確認が難しい、例えば IC チップが搭載された本人確認書類を保有していない状況に対応するため原本送付の方法は残しつつ、偽変造によるなりすましなどのリスクへ対応するため、利用可能な書類を住民票の写し(原本)など「偽造を防止するための措置が講じられたもの」に限るとするものです。
国民全員が IC チップの搭載された本人確認書類を保有しているわけではない(マイナンバーカードの申請は国民の任意)ため、本内容も必要な対応であると考えられます。
これらを踏まえ、2 年後の改正犯収法施行に向け、対象となる事業者様がどのような対応を検討していく必要があるのか、次のセクションにまとめていきます。
IC チップ読み取りへ、いかに備えるか
携帯法および犯収法の改正内容から、eKYC の主軸が IC チップ読み取りに移行していくのは避けられない流れであり、今後の eKYC を見据えた場合、端的には「いつから自社サービスを IC チップ読み取りによる本人確認に対応させるか」に尽きると考えます。
以下は、改正前後の eKYC 手法比較ですが改正後は全て IC チップ読み取りが必要です。
改正前(現) | 改正後 | ||
---|---|---|---|
規程 ※1 | 内容 | 規程 ※1 | 内容 |
ホ | 本人容貌撮影+本人確認書類撮影 | ホ | 本人容貌撮影+IC チップ読み取り |
ヘ | 本人容貌撮影+IC チップ読み取り | ヘ | IC チップ読み取り+他特定事業者の顧客情報照会もしくは口座振込 ※改正前「ト」, 本人確認書類撮影削除 |
ト | 本人確認書類撮影もしくは IC チップ読み取り+他特定事業者の顧客情報照会もしくは口座振込 | ル | 電子署名(公的個人認証) |
ワ | 電子署名(公的個人認証) |
表1:改正前後での犯収法における自然人の eKYC 手法(主な変更点)
- ※1
- 犯収法施行規則第 6 条第 1 項第 1 号
IC チップ読み取りにはネイティブアプリが必要になり、eKYC の実現を検討される事業者様はネイティブアプリの利用を検討する必要が生じます。ネイティブアプリの利用を検討する際、考えられる方法がいくつかあります。
-
A. 自社でネイティブアプリを用意する(すでにネイティブアプリを展開している場合、Web からアプリへの導線を整備する)
B. eKYC ベンダーが提供するネイティブアプリ、SDK を利用する
C. デジタル庁が提供するデジタル認証アプリを利用する
A 方式が適するケース:自社でネイティブアプリを展開済み、もしくはネイティブアプリを用意する前提であれば、A の方法が解決策になりえると思います。
自社アプリのダウンロード数、インストール数を増やす機会として前向きに捉え、利用者様の導線を踏まえた全体構成の見直しを行うことも考えられます。
B 方式が適するケース:自社でネイティブアプリを持たずノウハウがない、ネイティブアプリ開発の経験はあるが eKYC について知見がないといった場合、B の方法が解決策になりえると思います。
ネイティブアプリを新しくいちから用意すると相応にコスト(iOS/Android 両方への対応が必要で、各ストアへアップロード / 審査を受ける工数、その後の運用にかかる工数など)がかかるため、すでに知見を持ち合わせているベンダーを活用することでコストの圧縮が期待できます。
C 方式が適するケース:自前でのネイティブアプリにこだわらず国が提供するデジタル認証アプリで良い場合、もしくは自前のネイティブアプリと並行し流入の口を広げたいという場合、C の方法が解決策になりえると思います。
デジタル認証アプリは国が運用するため、事業者様個別でアプリそのものに関する運用コストはかかりません。また、複数事業者様が共通して同じアプリを利用するため、すでに利用者がデジタル認証アプリをインストール済みであれば、新規にインストールする手間が発生しないというメリットもあります。
一方で、デジタル認証アプリ自体のカスタマイズはできませんし、容貌撮影ができないため改正後「ホ」方式に利用できず、対応する本人確認書類はマイナンバーカードのみで、何か不明点などがあった場合はデジタル庁へ問い合わせする必要があるなど、小回りは利かなくなります。
それぞれメリット、デメリットが存在するため、自社の戦略に合わせて選択することが重要です。以下に各対応方法のメリット、デメリットをまとめます。
対応方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自社で用意(A) |
|
|
eKYC ベンダー利用 (B) |
|
|
デジタル認証 |
|
|
表 2:対応方法のメリット・デメリット
サイバートラストでは、お客様の選択にあわせ、A,B,C いずれの方法もご支援できる体制を整えています。また、公的個人認証サービスを提供するプラットフォーム事業者として多種多様な業種のお客様に活用いただいている知見から、お客様の状況をお聞かせいただくことで、いずれの方法が最適かのご提案も可能です。
例えば A であれば、自社開発を容易にするため、ネイティブアプリに組み込んでいただく eKYC ライブラリをご提供しており、公的個人認証や署名検証の機能も API で簡易に実現可能です。B であれば弊社パートナー様をご紹介することが可能ですし、C であればデジタル認証アプリの利用を簡易に実現する「 iTrust 本人確認サービス デジタル認証アプリサービス対応 SDK」を提供しています。
対応検討にあたりまずは情報収集をしたい、どの方法が最適か相談したいなどありましたら、是非ともサイバートラストまでお問い合わせください。
さいごに
今回の犯収法改正は「2027 年 4 月 1 日から施行」となっているため、携帯法に比べれば若干の猶予があります。
図1:対応スケジュール
ただ、ではゆっくりしていられるかというとそんなことはなく、ただちに検討を開始いただくことをおすすめします。
理由として、改正前「ホ」を利用されている事業者様が数多くいるなかで、それらの事業者様が一斉に IC チップ読み取り方式への移行検討を開始されると、eKYC ベンダーのリソース不足が深刻になってくることが考えられ、「検討開始の早い者勝ち」になる可能性もあり、場合によっては改正前「ホ」方式は使えなくなるが他の方式採用が間に合わず、eKYC が不可能になるというケースが想像できます。
また、これまで改正前「ホ」方式のみを利用されていた事業者様にとっては、IC チップ読み取り方式になることで事業者様のバックオフィス処理、および利用者の導線が大きく変わります。バックオフィス処理や利用者導線の変更による影響を最小限に抑えるためには、2027 年 4 月 1 日に備え早期に IC チップ読み取り方式を導入し、しばらくの間は改正前「ホ」方式と IC チップ読み取り方式を併用しつつ徐々に IC チップ読み取り方式の比率をあげていって、施行日にむけ緩やかに改正前「ホ」方式の利用を終了していくといった方法が考えられます。
しかしながら、こういった方法がとれるのは「早期に検討して IC チップ読み取りを実装したからこそ」であり、対応実施が施行日に近づけば近づくほど変更が発生した際の影響も大きくなりますので、「まだ 2 年ある」ではなく「もう 2 年しかない」という考え方で検討に着手されるのがよろしいかと思います。
なお、「表1:改正前後での犯収法における自然人の eKYC 手法(主な変更点)」でまとめた通り、改正前に犯収法「ホ」、「ヘ」、「ト」、「ワ」と呼ばれていた方式が、改正後は犯収法「ホ」、「ヘ」、「ル」となります。ただ、改正前「ホ」は本人確認書類を撮影する方式、改正後「ホ」は IC チップ読み取り方式であり、同じ犯収法「ホ」といっても全く意味合いが異なります。今後は改正前「ホ」、改正後「ホ」のようにどちらを示すか明示しないと混乱を招く可能性があるため、社内、社外問わずコミュニケーションの際にはご留意ください。
サイバートラストの iTrust 本人確認サービスは、携帯法、犯収法に対応しており、広くさまざまなお客様に採用いただいています。また、スマホ JPKI や最新の基本 4 情報取得、マイナ免許証の読み取りなど、法改正や国の施策にいち早く対応します。今後ますます重要度が高まる IC チップ読み取りについて検討を進められる場合、お気軽に お問い合わせフォーム からご連絡ください。