2023 年 04 月 28 日
訂正削除履歴と事務処理規程による運用を推奨しない理由とは?
~ これが最適解!電子帳簿保存法の押さえておくべきポイントを解説(第 2 回) ~
訂正削除履歴と事務処理規程による運用のデメリット
「真実性の確保」の要件を満たすためには、タイムスタンプを付与する方法を推奨します。では、訂正削除履歴が残せるシステムでの運用ならびに事務処理規程のみによる運用方法には、どのようなデメリットがあるのでしょうか。取引情報の授受にあたっては、システムを利用した授受と保存をすることを法令で定めており、その要件を満たす訂正削除履歴の残せるシステムで運用する必要があります。また、事務処理規程では、取引の範囲、対象データ、厳格な訂正削除に関する規程を備える必要があるため、時間や手間がかかってしまいます。
【訂正削除履歴の残せるシステムでの運用を推奨しない理由】
- 次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算処理システムを使用して 当該取引情報の授受 及び当該電磁的記録の保存を行うこと。
- 当該電磁的記録の記録事項については訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
- 当該電磁的記録の記録事項については訂正又は削除を行うことができないこと。
- 当該電磁的記録の記録事項については正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規定を定め、当該規程に沿った運用を行い、
(出典)e-Gov 法令検索|電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(施行日:令和四年一月一日)
ポイント
電子メールで受領した PDF ファイルをシステムに保存するのは法令違反
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の第四条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)には、電子取引において 「当該取引情報の授受」 との記載があるとおり、取引関連書類のやり取りをシステム間で実施する必要があり、メール送付などで受領した PDF ファイルをシステムに保存して管理することは電子帳簿保存法の規則に違反することになります。そのため、すべての取引先と当該システムまたは互換性のあるシステムが導入されている必要があり、メール送付等で受領した取引関連書類についてはタイムスタンプを付与して保存する必要があります。システムにおける管理と、タイムスタンプを付与した電子データ管理の 2 つが混在する形が避けられない可能性が高いため、タイムスタンプを付与することで運用負荷が抑えられ、管理も簡素化することができます。
また、スキャナデータを異なるシステムやサーバーに移行する際には、スキャナデータだけでなくデータを保存した時刻と、それ以降に改変されていないことの証明に必要な情報も引き継ぐ必要があることに留意する。
ポイント
運用するシステムやサービスをリプレイスすることが困難
スキャナ保存の場合、上記の記載があるものの現在利用しているシステムから別システムに移行する際に、「真実性の確保」が求められますが、現状では現実解がないため、利用しているシステムやサービスの終了やコスト面などの理由から別のシステムやサービスに移行すること自体が困難となってしまいます。
【事務処理規程での運用を推奨しない理由】
1. 詳細な規程の備え付けの必要性
事務処理規程を適用する際には、詳細な規程を備え付ける必要があり、複雑な業務を伴い規程には以下のような内容を示す必要があります。実行可能な規程を作成する必要があり、時間と手間がかかりますし、作成した規程が法令に沿った内容であるか確認し、必要に応じて見直さなければありません。
取引の範囲 | メール、クラウド、EDI など、どのような取引があるのか具体的に詳細を示す必要があり、すべての取引先に合わせて対応する必要があるため、すべてを網羅することが困難 |
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対象となるデータ | 見積書、請求書、領収書など、どの書類が対象データとなるのか具体的に詳細を示す必要があり、取引情報で扱われる書類すべてを網羅することが困難 |
訂正・削除 | 訂正・削除ができる条件、その方法について社内フローや利用するシステムに合わせて詳細を示す必要がある |
責任者・管理者 | 責任者・管理者を定めて記載することに加えて、規程に従う必要のあるすべての人を示す必要がある |
2. 厳密な訂正削除の必要性
事務処理規程では、訂正・削除を行う際の手順が定められています。訂正・削除を行う場合には、取引情報ごとの訂正削除理由の記録、承認行為の正当性を担保する必要があるため、承認フローの整備や証憑管理体制の構築が必要になります。
- 業務上やむを得ず訂正・削除する場合には、申請書に内容を記載し、管理責任者に提出する
- 管理責任者は、申請書の提出を受けた場合には、正当な利用がある場合のみ承認し、処理責任者に訂正、削除を依頼する
- 処理責任者は、取引情報に履歴情報を示し、訂正・削除完了報告書を作成し管理責任者に提出する
- 訂正・削除の申請書、訂正・削除完了報告書は、対象の取引データの保管期間終了まで保管する
次回は、タイムスタンプを付与することで一元管理が可能な理由について解説します。