2025 年 09 月 08 日
迫る古物営業法改正!広がる本人確認の見直し
~犯収法等改正に続き今年10月、中古品売買に関わる法律も本人確認厳格化へ~
はじめに
2025 年 6 月、警察庁より古物営業法施行規則の一部を改正する規則案の意見募集が行われました。近年被害が増えている電線等の窃盗に対応するための措置で、同改正は 2025 年 10 月 1 日に施行されます。

出典:警察庁「古物営業法施行規則の一部を改正する規則案」に対する意見の募集について
弊社の過去ブログにおいて「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」や「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(以下、携帯法)」(以下、まとめて犯収法等)で本人確認厳格化の流れがある旨をお話してきましたが、古物営業法にもその波がきており、今後さまざまな業界で同様の流れがあるものと考えられます。
今回のブログでは、直近に迫った古物営業法施行規則の改正内容を説明します。対象事業者様が何に備えなければならないかは勿論のこと、それ以外の業界のみなさまにおかれましても、どういうことがきっかけで厳格化の流れを受けるか、その場合にどのような対応を検討すればいいかを検討する一助にしていただければ幸いです。
古物営業法とは
簡単に言えば、中古品売買に関する法律です。
古物営業法では「この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。」と記されています。
では「古物」とは何なのかというと、古物営業法施行規則に区分が示されており、美術品や書籍、自動車など多岐にわたります。

衣類や自動車、ゲーム(道具類に含まれる)も「古物」の範囲となり、生活の中で当たり前に触れている法律になります。
古物営業法施行規則の改正内容
それでは、2025 年 10 月 1 日に施行される改正内容を見ていきましょう。端的には「一部の物(電線等)の買い取り時における本人確認を義務付ける」というもので、前述の「『古物営業法施行規則の一部を改正する規則案』に対する意見の募集について」のページで公開されている「意見公募要領」にて以下の通り記されています。同資料に施行日が令和 7 年 10 月 1 日であることも記されています。

出典:警察庁「古物営業法施行規則の一部を改正する規則案」に対する意見の募集について
警察庁の意見募集ページに法律案改正前後の内容も示されており、上記「命令等の内容」の通り、エアコンディショナーの室外ユニット及び電気温水器機のヒートポンプ、電線、グレーチング(金属製のものに限る)が追加される案となっていることを確認できます。
なお、古物営業法の改正に先立ち、2025 年 6 月に「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」という新しい法律が制定、公布されており、2025 年 9 月 1 日から一部が施行されています。ここでは「ケーブルカッター等のうち犯行使用のおそれが大きい工具の正当な理由なき隠匿形態を禁止」なども定められていて、窃盗被害への対策が多方面で進んでいます。

出典:警察庁 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(概要)
事業者様で必要な対策
10 月 1 日より、電線等の取引においては金額の多寡にかかわらず、古物営業法第十五条第 1 項に定められる本人確認を行うことが義務化されます。本人確認を行うということは、同法第十六条に定められる帳簿等の記録が必要となります。
電線の窃盗被害はニュースでもたびたび取り上げられており、その被害も深刻なものになってきていることから、買取を厳格にして気軽に売れなくすることで窃盗自体を抑止していく狙いがあるものと考えられます。
一方で、これまで同品目の買取を行ってきた事業者様においては本人確認や帳簿記録のコストが増えることになります。全ての品目売買で本人確認が必要になったわけではありませんが、犯収法等で本人確認厳格化の流れがある昨今、今回の改正を機に、安心確実でバックエンドのコストを圧縮できる本人確認方法の採用を検討いただくことをおすすめします。
古物営業法施行規則において、「国家公安委員会規則で定める措置」として本人確認に利用可能な手法が列挙されていますが、犯収法等と同様、オンラインで実施可能な本人確認(eKYC)手法も存在しています。以下、内容を表にまとめます。
| 古物営業法施行規則に定められる eKYC 手法抜粋 | |
|---|---|
| 規程※1 | 内容 |
| 八 | 本人容貌撮影+本人確認書類撮影 |
| 九 | 本人容貌撮影+IC チップ読み取り |
| 十一 | 電子署名(公的個人認証) |
表1:古物営業法施行規則に定められる eKYC 手法抜粋
「八」は画像撮影の手法で、本手法は犯収法等において廃止が確定しています。理由としては、撮影した画像情報の偽造被害が発生しているためです。今回の古物営業法施行規則改正に「八」の廃止は含まれていませんが、窃盗を企む人達は身分証明書の偽造も行っている可能性があり、身分証明書の真贋を正しく判定するという点において本手法は脆弱なため、犯収法等と同じく今後廃止になる可能性が高いと思料します。
「九」は IC チップ読み取りの手法で、マイナンバーカードなどに搭載されている IC チップを読み取るものです。IC チップに搭載される情報は省庁が管理する秘密鍵によって電子署名されており、電子署名されたデータの検証を行うことで偽造の有無を確実に見抜くことが可能です。悪意ある第三者により IC チップの内容を模倣されたとしても、秘密鍵は各省庁で厳格に管理されており、同秘密鍵を用いた電子署名は管理している省庁でしか行えないため、署名検証により偽造されたカードであることを見抜くことができます。
「十一」も IC チップ読み取りなのですが、こちらは公的個人認証を利用する手法です。マイナンバーカードの IC チップに搭載される署名用電子証明書を使う手法で、「九」と異なり容貌画像の撮影を必要とせず、IC チップ読み取りのみで操作を完結させることができます。公的個人認証はふるさと納税のワンストップ特例でも利用可能なため、同様の操作を経験したことがある方も多いのではないかと思います。
上記を踏まえ、今後の対応を検討される場合には「九」および「十一」をおすすめします。「八」も現状利用可能であるものの、昨今の被害状況と、今回の改正含む一連の対応を鑑みたとき、脆弱な点を残す手法を採用することはレピュテーションリスクに繋がる可能性があります。
なお、「九」および「十一」について、eKYC 手法だからオンラインでしか実施できないというものではありません。例えば「九」について、古物営業法施行規則上では「・・・当該半導体集積回路に記録された当該情報の送信を受けること」とあり、送信を受ける場所については定められていません。そのため、オンラインでの取引を受け付けるときの本人確認手法として「九」や「十一」を実装し、それを対面取引時に流用するといったことも可能です。そうすることで、オンライン / 対面における本人確認~帳簿類作成までのオペレーションを統一し、安心安全で厳格な本人確認+トータルコスト削減を実現することも可能と考えられます。
さいごに
犯収法等で撮影方式が廃止になること然り、今回の電線等取引時に本人確認が義務化されること然り、国全体の流れとして、適切な本人確認とは何なのか見直される時期になってきていると感じます。
いずれも犯罪への対応としての見直しであって、今後犯罪が高度化していけば、それに対応するためますます厳格さが求められ、更に広い範囲で適切な本人確認の必要性が見直されていくでしょう。「今は自分の事業に関係ない」という事業者様であっても、厳格な本人確認の実装 / 運用はコストではなく自社のお客様に安心してサービスを利用いただくための投資と位置付けて、いつ自分たちの事業に本人確認厳格化の波がきても良いような事前の対応、もしくは周辺業界の情報収集というのが非常に重要になってくると考えられます。
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